公共向け入札回答提案書の作成に影響:文化庁「公用文作成の要領」公用文の書き方の見直しについて

公共入札提案

2022年1月8日の読売新聞に「公用文に「?」「!」使えます!…国家公務員向け手引、70年ぶり見直し」という記事が掲載されました。新しい「公用文作成の要領」令和3年3月12日文化審議会国語分科会(報告)を受けて、いよいよかたちになりました。

読売新聞:公用文に「?」「!」使えます!…国家公務員向け手引、70年ぶり見直し

見るとすでにウィキペディアも更新されています。早い!

ウィキペディア「公用文作成の要領」

1.公用文に注目している理由

私が公用文について着目したきっかけは、2007年来、公共向け入札回答提案書の作成にかかわりはじめたことでした。もともと、おもに製品マニュアルやセールスガイドなどの編集制作を行っていた関係上、案件ごとに拠り所とされるべき日本語を逐一確認することは必須の手続きでした。そのため、とくに顧客からの指定はなくても、その案件で「正しい」日本語ガイドラインを探す作業を行っていたのです。

公用文とは、国家や公共団体などが出す文書や法令などの文章です(コトバンク)。「公務員が書く行政で使われる文書」ではありますが、つづけて「官公庁あての文書や銀行、会社などの発行する正式文書などをいう場合もある。」とあるように、公用文の執筆ルールを理解していることは、公共提案書作成の前提であると、私は考えています。民間が書く公共の入札提案書は、そもそも公告における提案および入札依頼書をはじめとする、府省庁や自治体等からの文書に対する回答文書であり、提示された文書に呼応して執筆することが必要だからです。

昨年、たまたま公共関連提案まわりのお話が多かったため、改めて調べ直していたら、令和3年(昨年、2021年)3月に「新しい「公用文作成の要領」に向けて(報告)」が、文化庁文化審議会国語分科会から公表されていることが分かりました。探すと、すでに関連書籍も出版されていました(参考:「令和時代の公用文書き方のルール」(小田順子著))。

2.公用文の書き方で参考にしていたこと

これまで参照していた公用文の書き方は、弊ブログ「【提案書とは?】回答提案書はどうやって作ればよい?」で言及していた

『公用文の書き表し方の基準 資料集』文化庁編集(第一法規出版)

さらに

「分かりやすい公用文の書き方[改訂版]増補」(磯崎陽輔著) – 令和3年8月に第6版

※ 多くの行政関係者が参照しているという声を聞きます。

でした。

公用文のルールには、一般社会、民間で使われている日本語の表記ルールと異なることが多いことが特徴です。いずれも目指すのは、読み手に応じた分かりやすい文書の作成であるにもかかわらず、です。

上記弊ブログ「【提案書とは?】回答提案書はどうやって作ればよい?」でご紹介していた記者ハンドブック(共同通信社)をはじめとする日本語の書き方は、私が携わってきたIT業界における表記ルールも基準にしていたルールです。これらを元に、大企業であれば、ブランドルールとともに、社内およびパートナー向けのガイドラインが示されていることが多く、パートナーである関連企業は、取引先である大企業のルールにのっとって、同じルールを守っているという構図になっています。

2.1 IT業界での提案書の日本語

ちなみに、さまざまなパソコンやサーバー、その上に搭載される諸ソフトウェアなどが参照してきたWindows OSの開発企業であるマイクロソフト社は、Windows 10をリリースした際にユーザーインターフェイス、つまり画面上に表示される日本語の表記を大きく変更しました。つまり、上に挙げた他社製品のメニューやマニュアルなど書籍にも影響される出来事です。

例でいうと、「ユーザ」を「ユーザー」、「サーバ」を「サーバー」といったような、一般的な名詞についても変更されました。より現在の日本語の実態に即した表記に変更する、というのが理由だと記憶しています。

これは相当大きな変更だったため、IT業界界隈のドキュメントやマニュアル、カタログ等、コンテンツの制作には少し戸惑いが生じました。マイクロソフト社、つまりWindowsにまつわる表記に急ぎ揃える作業が大量発生した一方で、あえて追随せず、従来通りの表記ルールにとどまる企業も少なからずありました。私の肌感覚でしたが、まんざら間違っていなかったと思います。結果として、それまで、マイクロソフト社の日本語ガイドラインが、実質的なデファクトスタンダード(標準的なルール)だった状況は転じて、以後、メニュー表示やガイドの記載など、さまざまな場面での多少の「揺れ」(表記の異なるものが混じっていること)が生じることになりました。

  ※現在のマイクロソフト社日本語ガイドラインはここからダウンロード

3.平易な日本語を追求している公用文

話を元に戻すと、今年1月7日の公用文の表記ルールの変更の趣旨は、古くなった公用文表記の基礎である、「公用文作成の要領」(昭和27年 内閣官房長官依命通知別紙)の見直しであり、実際、2021年3月の「報告」冒頭には、以下のような言及があります。

「感じのよく意味のとおりやすいものとする」という基本となる考え方は変わらないものの、内容のうちに公用文における実態や社会状況との食い違いが大きくなっているところが見られる。

新しい「公用文作成令和の要領」3年3月に12向けて日文化審議会国語分科会(報告)

つまり、「感じのよく意味のとおりやすい」文、つまり読み手に応じて分かりやすい文を心がけるという趣旨は一貫しているということです。

「「公用文作成の要領」は、公用文を、感じの良く意味の通りやすいものとするとともに、執筆効率の増進を図るため、その用語用字・文体・書き方などについて改善を加え、書き表し方の基準を示したものである。」

昭和27年公用文作成の要領より

次に気に留める必要があるのは、「報告」の中で続く文で、表記ルールを「法令に準ずるような告示や訓令、また、法令に基づいて示される通知等」と、「各府省庁による白書や広報等の文書類」に分けて方針を説明していることです。背景として、「社会状況及び日本語の変化への対応」をうたい、その具体的な変更内容を示しています。

入札回答提案書については、盛り込む内容が網羅的であることから、従来の書き方にも、今後のより分かりやすい書き方にも、内容に合わせた記載が可能と解釈ができるとは思いますが、重要なのは、実質IT系の提案書に埋め込んできた民間の表記が、ほぼ正式に受け入れられることになったということです。そして、各府省庁では、とくに広報の分野で、すでに書き表し方の工夫がされてきていることに言及した上で、読み手に応じて分かりやすい文書作成を行うように工夫するとされています。

3.1. 読み手に伝わる公用文作成の条件

「基本的な考え方」には、具体的な表記の原則に入る前に、「基本的な考え方」の2つめとして、「読み手に伝わる公用文作成の条件」について解説されています。

詳細は原文を参照していただきたいですが(実際に読みやすいです)、まさに「伝わりやすい日本語の書き方」に取り組んできた要旨がここにあると言えます。

  1. 正確に書く
  2. 分かりやすく書く
  3. 気持ちに配慮して書く

とくに、提案書に関しては、(2)の「分かりやすく書く」の項の最後に、「カ 正確さとのバランスをとる」とあるのが、個人的に訴えてきたことと重なり、うれしく思った点です。提案書に求められる読み手にとっての分かりやすさと、回答提案する際のポイントとなる正確さの保持の間には、決して「自然に両立するとは言えない面がある」と言及されています。引き続き、回答する内容をいかに分かりやすく、しかし正確に伝えるかの工夫を続ける必要があります。

また、(3)の「ア 文書の目的や種類、読み手にふさわしい書き方をする」も注目です。

4.表記の原則の概要

従来どおり、「常用漢字を使うこと、常用漢字表にない文字は仮名書きにする」方針は変わりません。

そのほか、公用文の特徴だった、漢字表記の接続詞や副詞は、漢字ではなく原則ひらがなになったと考えておけばよいようです。つまり、民間の表記に合わせるかたちとなりました。以下が一例です。

  • あえて、あらかじめ、もって、よろしく、したがって、など、くらい、ください、ある、ない、こと、とき(補助動詞、補助形容詞、形式名詞)

例外は、

  • 及び、又は、並びに、若しくは、御礼、御挨拶(おん、ごは漢字の「御」)
  • かつ、ただし、ほか、よる、などの常用漢字であっても法令に倣い仮名で書くもの

そのほかにも数字やカタカナ語、符号などの指針が多々掲載されていますが、ここではこのあたりで止めて別途書こうと思います。

まとめ

府省庁や自治体など向けの提案書で書く文章の作法は、民間では禁止されているものが推奨されるという、独特な表記も多々あり、慣れないととっつきにくい雰囲気すらあるもしれません。しかし、そんな公用文も、目指すところはいまの世の中に分かりやすく伝わること。
そう知ってみると、なんとも親近感が出てきます。

国の文書が、より実態や生活に近づく方向で変更が行われるのは常かと思いますが、何分久しぶりの改訂です。今後、どのようなスピードでどのくらい精密に対応がなされ、浸透していくか、興味深くアンテナを立てていきたいと思います。

提案書を書く立場にとって忘れたくないのは、公共の企画提案書は、①入札依頼書や提案依頼書の文章をよく観察して踏襲すること、②要件の回答では要件に呼応すること、など基本は変わらないことです。その上で、公用文作成の要領を踏まえて執筆することを心がけていただければと思います。

取り急ぎ、参考になるようであれば幸いです。

参考:新しい「公用文作成の要領に向けて」(報告)令和3年3月12日 文化審議会国語分科会 

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